研究概要 |
象牙質コラーゲンに損傷を与えない処理材を開発することを目的として開発したセルフエッチングプライマーを用いて,歯面処理による象牙賛コラーゲンの高次構造変化を検討した。 ヒト抜去歯をEDTA脱灰した象牙質試料に対して,試作プライマーまたは40%リン酸水溶液で処理した。試料を透過型電子顕微鏡(TEM)観察した結果,1時間の処理時間ではリン酸処理した象牙質コラーゲンのみが明らかに構造変化を生じた。しかしながら,歯科臨床で使用する処理時間である15秒ないし60秒間では構造変化を認めなかった。 そこで,さらに詳細にコラーゲンの構造変化を検出するために,ヒト抜去歯の象牙質粉末を両処理材で処理し,電気泳動を行いコラーゲンの分子量変化を処理材の種類,処理時間などについて検討した結果,リン酸処理した試料で,より低い分子量のバンドが検出された(15〜25kD)。すなわち,TEM観察では検出されなかった短時間の処理時間においてもリン酸処理の方が,よりコラーゲンの構造変化を生じている可能性が示唆された。試作プライマーは,アミノ酸誘導体モノマーが接着性モノマーであり,このモノマーがコラーゲンに吸着して機能することから,リン酸に比べてコラーゲンの構造変化を少なくすると考えられた。さらに両処理材で60秒間処理したコラーゲンを電気泳動後,I型コラーゲン抗体を用いたウェスタンブロッティング法で測定した。その結果,ともにI型コラーゲン抗体に対しては陰性であり,本測定結果からは両処理材ともにコラーゲンの高次構造を変化させることが示唆された。以上のことから,現在主な歯面処理材として,リン酸処理とセルエッチングプライマー処理があり両者ともに強固な接着が得られるものの,象牙質に対してはリン酸を用いるよりもアミノ酸誘導体モノマーを接着性モノマーとするプライマーを用いる方が象牙質コラーゲンに与える損傷が少ないことが示唆された。
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