研究概要 |
本研究では,関節腔内病変と顎運動の関連性について詳細に把握すべく,顎運動計測ならびにその解析を行ってきたが,両者の間に明らかな関連性は認められなかった.今回用いた基準点は,切歯点および顆頭点であった.ここで,顆頭点は解剖学的顆頭点と運動論的顆頭点に大別され,解剖学的顆頭点には平均的顆頭点が,運動論的顆頭点には蝶番運動軸点や全運動軸点がそれぞれ代表的な点としてあげられる.これまでは解剖学的顆頭点を用いてきたが,運動論的顆頭点,中でも全運動軸点に着目しその解析を行った. ここで通常,全運動軸点算出の際には,任意の点および,その点を中心とし等間隔の点における運動路を算出・表示した多点図が用いられるが,運動制限を有する症例においては,その制限の種類により,多点図はさまざまな様相を呈する.それゆえ,場合によっては全運動軸点様の運動路が多数描かれ,全運動軸点の決定が困難な症例に遭遇した.さらには,その中でも多点図が顆頭点付近を中心とした同心円を描く症例ではことさら全運動軸点の算出が困難であった. そこで今回,多点図が同心円を描き,全運動軸点の算出が困難であった3症例の臨床症状,各種画像所見を検討することにより,全運動軸点の算出が困難であった原因とそのメカニズムについて検討し,以下の知見を得た。 1.多点図が同心円を描き,全運動軸点の算出が困難であった症例は,下顎頭の骨形態変化,線維性癒着に代表される顎関節の器質的変化により顆路が変化した症例であると考えられた. 2.骨形態変化が著しい症例では,顆路が上凸型の経路を示し,顎関節に通常では考えられない負荷がかかる可能性が示唆された.
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