研究概要 |
ナメクジは単純な神経系を持ちながら高度な嗅覚-味覚連合学習を行う.これは単離脳でも再現可能である.脳内に多数存在し,前脳に豊富な投射を持つモノアミン作動性神経は学習において無条件刺激を担い,神経回路の可塑性を引き起こすと考えられる.特にセロトニンは多くの動物で学習に関与することが知られていることから,本研究ではセロトニン作動性神経の免疫組織学および電気生理学的解析を行った.中枢神経節においてセロトニン抗体染色を行うと,脳神経節に3対の大型の細胞が染色された.このうち吻側に存在した1対の細胞はすでに同定されたmetacerebral giant cellと呼ばれる細胞で,嗅覚学習には直接関与しないことがわかっている.尾側に存在した2対の細胞は新しくみつかったもので,このうちの1個にbiocytinを注入すると,前脳に向けて投射が見られた. 前脳のニューロンは自発的に同期した膜電位振動を生じており,これが局所場電位として記録される.前脳にセロトニンを灌流投与すると,局所場電位の振動数が増加した.同様の振動数変化は,無条件刺激である味覚神経束の電気刺激によっても,またセロトニン含有細胞の刺激によっても生じることができた.さらに前脳においてシナプス伝達の可塑性が生じる条件を検討した.その結果,触角神経束に高頻度電気刺激を加えることにより,前脳に誘発される電位が2時間以上にわたって増強されることが明らかになった.このような長期増強が学習のメカニズムとなっている可能性が考えられる.
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