研究概要 |
1.HIVプロテアーゼの調製 前年度に引き続き,凝集や自己分解を起こしにくい試料を調製するため,方法を改善した. (1)尿素により可溶化した試料を,まずゲルろ過により精製した後,refoldingを行うことにした.以前の方法では,refoldingにより試料が活性をもってしまい,その後のゲルろ過時に自己分解が一部進行したが本方法によりこの問題を克服することができた. (2)本研究では高濃度の試料が必要なため,精製試料の濃縮が必要であったが,この際に試料の会合・凝集が起こることが問題点となっていた.限外ろ過フィルターの特性を検討し,Centriprepを使用することにより,濃縮時の凝集を抑えることができた. (3)本酵素は,Gln7をLysに置換することにより,自己分解が抑えられることが知られている.そこで上記変異体を野生型と同様に,発現・精製を試みた.しかし,変異型では,野生型の場合と異なり,refolding後の試料には成熟型でないものが一部含まれていたため,この試料の中から成熟型のみを単離することを現在試みている. 2.HIVプロテアーゼのSAXS測定と変性実験 上記1により調製した試料を用いて,天然状態におけるX線小角散乱(SAXS)の測定を行ったところ,慣性半径や散乱曲線の形状などから,比較的良質の散乱データを得ることができた(測定は,文部科学省高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設にて行った).そこで,さらに種々の尿素濃度でSAXS測定を行い,尿素変性実験を行った.各データから慣性半径と原点散乱強度を求め,変性曲線を作成した.変性中点は従来報告されている値とほぼ一致したが,本実験では,原点散乱強度の値から高尿素存在下において分子の会合が示唆された.平衡論的解析により,天然状態の二量体に対して,平均重合度が6の会合体であると考えられた.
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