アミロイド形成性ペプチドの細胞毒性の分子機構としては、細胞内カルシウム恒常性攪乱説及び活性酸素毒性説が有力であり、これまでに非常に多くの研究者がこれらの仮説を指示する実験結果を発表している。筆者は、アミロイド形成性ペプチド自らが細胞膜の脂質二重相に入り込んで毒性のカルシウム透過性ポアーを形成する可能性を人工膜系で示してしてきており、今回の研究ではこのことの生細胞系での妥当性を検証することを試みた。カルシウムイメージング法により、ペプチド添加に伴って細胞内にカルシウムが動員されるか否かを可視化したところ、カルシウム上昇がいくつかの細胞で観察された。主として用いたペプチドはアルツハイマーアミロイド25-35であり、従来、人工膜系では非常に再現性よく膜透過性を更新させることが知られているが、生細胞系ではこのような高い再現性は見られなかった。非常に興味深いことに、カルシウム上昇が見られた細胞では、一過的に急激なカルシウム上昇が見られた後、次第に減少に転じるということが観察された。人工膜系では、一度ポアーが形成されると非可逆的なイオン流が見られることを鑑みるとき、生細胞ではカルシウム汲み出し(ポンプ)機能や膜蛋白との相互作用、さらにはインタナリゼーションなどによってポアーそのものが除去されるというような防御機構が働いている可能性があろう。ポアー形成は確率過程であり、散発的に細胞膜に形成されて無差別的なイオン流を誘発するであろうから、アミロイドに暴露された細胞における代謝的負荷は長期間ではかなり大きなものになろう。今後はイメージング法で包括的なデータを集積すると共に、代謝負荷をより統計平均的に表す熱量測定を行うことが望ましい。実験結果の優先権の問題があり、また、より包括的な形で発表したいこともあって、今年度は学会発表を控えたため、当初予定した旅費を使用しなかった。
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