研究概要 |
分子を組織化して薄膜にする技術が進む一方で,薄膜の構造とその物理的物性を分光学的に明らかにする手法は意外に進んでいない。本研究課題では,生体薄膜などの高度な分子構造と機能をもつ有機超薄膜を,赤外分光法で解析するための手段の開発に着手し,ソフトマテリアルの化学を界面化学と分析化学の両面から推進した。 新しい研究の軸として,ケモメトリックスとしても知られる多変量解析の考え方を,全く新しい概念に変えてスペクトル解析に導入した。ひとつは,主成分分析法(PCA)アルゴリズムを詳しく検討した結果,複数のスペクトルから微量化学種の純スペクトルが抽出できることがわかった。これにより,固液界面の界面水が,バルクの水とは異なる化学構造をとっていることを,世界ではじめて赤外スペクトルを通じて明らかにすることができた。また,界面水と考えられる領域が,数Å程度であることも固有値解析から明らかにできた。この例の示すように,従来の"濃度検量"という強い呪縛から離れた,新しい多変量解析に利用法を示し,日本分光学会の論文賞,ならびに日本分析化学会の奨励賞の受賞につながった。 他方,多変量解析のもつ強い線形性に着目し,物理計測の線形性と非線形性とを強力に区別する実験を考えた。薄膜解析に広く用いられる透過分光法を,この考え方に基づいて定式化した結果,本来計測が不可能な"縦波光による面外モード測定"が理論的に可能であることが示唆された。その後,回帰行列の理論的構築に成功し,非金属表面での面外モードスペクトルの測定に世界で始めて成功し,国内外の多くの学会から招待講演を受けた。 この手法は多角入射分解分光法(MAIRS)と命名されており,厚みのわからない高分子材料や生体薄膜の分子配向解析に使えることが予想されており,現在,装置開発も含めて研究を進めている。
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