研究概要 |
最近、脂質ラフト構造と呼ばれる細胞膜上の微小構造(マイクロドメイン)が、細胞内Ca^<2+>濃度上昇機構において必須であることが報告され、局所的な情報伝達の重要性が指摘されはじめている。しかし、ATP刺激による情報伝達系のマイクロドメインの関与については、ほとんど報告されていない。そこで、本研究では、ATPの細胞膜上の局所的な作用に関する情報伝達機構を明らかにすることを目的として研究を行った。 NG108-15細胞はATPやUTPによって活性化されるP2Y_2受容体が発現している。本受容体を刺激すると、三量体Gタンパク質Gqを介してイノシトールリン脂質の水解反応が促進され、細胞内Ca^<2+>濃度上昇がもたらされる。脂質ラフトは、コレステロールに富んだ構造をしており、コレステロールを取り除く作用を有するβ-シクロデキストリンによってその微細構造が破壊されることが知られている。NG108-15細胞にβ-シクロデキストリンを処理するとATPやUTPによる細胞内Ca^<2+>濃度上昇やイノシトールリン脂質代謝が顕著に抑制された。一方、蔗糖密度勾配遠心法によって、脂質ラフトを分画したところ、そのマーカータンパク質であるフロティリンの存在が確認された。一方、β-シクロデキストリン処理によって脂質ラフト構造が破壊されることが明らかになった。したがって、P2Y_2受容体の情報伝達を担う機能分子は脂質ラフト構造に集積し、脂質ラフト構造はシグナル伝達の場として重要な役割を担っていることが明らかになった(XIth World Congress of Pharmacology, San Franciscoで発表)。一方、ATPはecto-nucleotidaseによって速やかにアデノシンへと代謝されるが、アフリカツメガエル卵母細胞に、代謝酵素とともにA_<2B>受容体を発現させたところ、アデノシンデアミナーゼによって抑制されない、ATPによるA_<2B>受容体を介したサイクリックAMPの上昇作用が認められた。したがって、ATPの代謝によるアデノシン生成と、生成したアデノシンによる受容体刺激は、極めて局所的なマイクロドメインにて行われていることを明らかにした(Mol. Pharmacol. 61, 606-13, 2002)。
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