研究概要 |
平成14年度には,地衣類Flavoparmelia baltimorensis由来の多糖であるPB-2のラット歯状回長期増強(LTP)に関する効果を検討した.PB-2は経口投与・静脈内投与の二経路においてそれぞれ60Hz,30発で誘導されるLTPを増大させた.しかし,この効果は脳室内投与では見られなかったので,PB-2のLTP増大効果は中枢への直接作用により生じるのではなく,末梢の因子を介した機序により生じることが考えられた. 次にPB-2のLTP増大作用の機序を明らかにする為に,アドレナリンβ受容体の関与を検討した.アドレナリンβ受容体拮抗薬を静脈内投与すると,同じく静脈内投与したPB-2のLTP増大効果が消失した.脳室内に投与した拮抗薬もまた静脈内投与したPB-2の増大効果を消失させた.末梢・中枢のβ受容体はPB-2の投与により独立に活性化しているのではなく,末梢のβ受容体が活性化する事によって中枢のβ受容体も活性化することが示唆された.中枢では,特に歯状回のβ受容体が関与する事も明らかにされた. 末梢血中のインターロイキン-1(IL-1)は中枢のノルエピネフリン量を調節する事が報告されているので,PB-2によるLTP増大効果へのIL-1βの関与について検討した.静脈内投与したIL-1βの受容体拮抗薬はPB-2のLTP増大効果を増強した.IL-1βは単独ではLTPを抑制したので,上の結果はPB-2がIL-1βの放出を介してLTPを抑制している事を示唆する.IL-1受容体とアドレナリンβ受容体との関連については現在検討中である. 以上より,PB-2はLTPに対してアドレナリンβ受容体を介したLTP増大効果とIL-1受容体を介したLTP抑制効果という相反する二つの効果を併せ持ち,それらのバランスにより見かけ上のLTPに対する効果が現れることが示唆された.
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