研究概要 |
近年,核移行性ペプチドと膜を通過しない蛋白質を結合させた融合蛋白質が,細胞膜を通過することが報告された.しかし,抗腫瘍抗体フラグメント等の標的指向性の蛋白質と核移行性ペプチドをそのまま結合させただけでは,核移行性ペプチドの性質による非特異的な組織への集積が増えることが示されている.そこで本課題では,核移行性ペプチドに塩基性アミノ酸が多数含まれていることに注目し,ペプチド全体の塩基性を減弱させるために酸性アミノ酸を繋げることにより非特異的な細胞浸潤を抑え,細胞に取り込まれた後,細胞内代謝により塩基性アミノ酸配列のみを遊離するペプチドの設計を行った.これにより細胞外では母体蛋白質の動態を,細胞内では核移行性ペプチドの動態を持つ試薬が出来ると考えた.核移行性の塩基性アミノ酸部位としてリソソーム代謝に安定なD体アミノ酸を基本とし,膜透過と核移行が知られている(D-Arg)_7を選択した.また酸性アミノ酸として強酸性のスルホニル基を有する[Tyr(SO_3H)]を選択し,モデルペプチドとしてAc-[Tyr(SO_3H)]_4-Gly-Lys-Gly-Tyr-(D-Arg)_7-Lys(FITC)-CONH_2を設計,合成した.本モデルペプチドを用いて(D-Aeg)_7の塩基性を[Tyr(SO_3H)]_4により減弱させたことによる膜透過に及ぼす影響を検討した.細胞への取り込みを検討したところ,強酸性基を有するTyr(SO_3H)があるにも関わらず,細胞への取り込みが観察された.又この取り込みは低温下でも低下しなかったことから,(D-Arg)_7の膜透過性が維持されていると考えられた.本結果は,核移行部位である(D-Arg)_7の作用は強力でありその作用を打ち消すためには更なる酸性基の導入が必要と考えられた.さらにその作用の強さ故に血液循環中はその作用をマスクするという本研究方針は有用であると考えられる.
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