研究概要 |
平成13年度は,精神科入院治療における医療保護入院患者に対する入院時書面告知をめぐる諸問題を明確にする目的で,昭和62年精神保健法改正当時の文献収集を行った。書面告知が入院患者の権利擁護を目的とすることは明白であるが,告知が書面によってなされること,告知内容,時期について,一部関係団体より,信頼関係を損なう・治療の妨げとなる等の理由により抵抗が示されたことを確認した。この抵抗感は,制度法定化10余年が経過した現在においても一部で見聞することである。そうであるならば,実際の運用のあり方が現場によって差があることが予測され,実施状況を明らかにする意義はあるものと考える。次に,実際書面告知場面に立ち会う・実施する立場にある精神医療専門職3名を対象に,書面告知の評価できる点,問題点,実施状況,望ましいあり方について半構成的質問紙を用いてインタビューを実施し,書面告知の運用をめぐる価値観にいくつかパターンがあるとの仮説を得た。書面告知はあくまで法で定められた行為であり,本来実施内容に違いがあってはならないものとする考え方と,告知行為には,治療関係,信頼関係を築く意味合いも当然発生するとの考え方である。後者の考え方には,そのために告知行為に慎重になる態度と,逆に告知行為を積極的に関係確立に活用していこうとの態度があることが示唆された。 平成14年度は,文献収集の継続および医療保護入院,措置入院経験のある回復者2名を対象に,数回のインタビューを実施した。両者はいずれも入院時に書面告知を受けた記憶がなく内容も知らなかったが,インタビューにおいて内容は十分理解し説明を受けることの意義を肯定し,告知時期については入院後1週間前後が適切であるとの意見を述べた。被告知者にとっては,単に告知されるのみでなく理解を促す説明がその後の治療経過においても重要であることが示唆された。
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