研究概要 |
当初計画では,本年度は,SSC計画に関係した日米双方の産官学諸セクターにおける意思決定過程を比較することによって,日本の科学技術政策の特異性を明らかにすることであった。ところが、今年度の研究実施計画にも述べた通り,平成13年度にSSC計画の分析を進めるにしたがって,科学技術支援システムという観点からのみでは,SSC計画の中止という事態は,十分に説明することができないのではないか,という問題が生じた。SSC計画という社会事象を虚心坦懐にみればみるほど,公的支援システムという特定の決まった形を想定することは難しくなっていったのである。そこで本年度は,アクターを基本的な分析単位とし,SSC計画という問題に関わったアクター間の相互作用として問題の誕生,展開,終結を描く方法で問題を捉えるという,従来の分析視角そのものを再検討することを中心に据えた研究を行った。アクター=人間という見方は社会科学一般に共通する見方であるが,科学社会学においては,人工物もアクターとして人間と対称に捉える,アクターネットワーク理論のような議論が存在する。しかし,アクターネットワーク理論は,そもそも社会における科学の強さを示すことを目的として構築されたものであること,また人工物の意図性の解釈に難点があることから,本研究のようにプロジェクトの中止の理由をさぐるにあたっては,そのままでは適用できないことは明らかである。そこで,行為者を中心とせず,行為者をとりまく制約条件に着目し,それら条件間関係の動態的変化において行為者がいかに組み込まれていくかという観点から,SSC計画の流れを探る新しい説明図式の構築を試みた。もとより,本説明図式はまだ体系的なものとはいえないものであるため,今後は他の既存の社会理論との比較を行いつつ,また他の事例に適用することで,その改鋳に努めていきたい。
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