研究概要 |
1. 研究の目的と本年度の課題 本研究では,既に開発した(前回科研費奨励研究(A))スケートブレードに作用する3分力が計測できるセンサー内臓スラップを一流選手に履かせて滑走させ,3次元画像分析,氷の滑走痕の定量化および筋電図計測を併用することにより,スラップスピードスケートの合理的要因を力学的・解剖学的観点から明らかにすることを目的とした. 前年度までに,(1)氷を砕くことによるパワー損失が,オランダの先行研究で報告されている総パワー損失54Wに対する比率1.5%(0.84W)よりも大きい可能性があること,(2)スラップスケートの滑走動作にみられる合理性,すなわちキック動作時の下腿の後傾が小さく重心の前方への移動が大きくなることは,従来の踵の挙上しないスケートで生じていたキック終了時の氷へのブレーキが小さくなることによるという知見を得た. そこで,本年度は,これらの検討から,「スラップスケートの合理性は,キック終了時にブレードが氷を削るエネルギーが減少することにより,スケーターから氷へのエネルギー伝達効率が改善されることにある」という仮説を提唱(トライボロジスト,第47巻第2号)した.そして,以下に示す研究課題を設定した. 研究課題:スケートブレードを含む身体およびスケートブレードの各セグメント間における力学的エネルギーの流れを検討することにより,提唱した仮説を証明し,スラップスケートの力学的合理性を究明する. 2. 得られた知見 スラップスケートを用いて足部後端(踵)が挙上することにより,キック終了時にスケートブレードから足部セグメントへの微小なエネルギー流入が認められ,そのエネルギーが下腿セグメントを経て大腿セグメントに流れ,有意差は認められなかったものの,最終的には体幹に蓄積され,重心速度のより大きな増加を引き起こすといえる 3. 今後の課題 従来のスケートでは腓腹筋のエキセントリックな収縮により膝関節の伸展動作が妨げられていた可能性を指摘した(結城ら,1999)が,本研究ではこのこととスラップの力学的要因との関連性を明らかにするまでには至らなかった.今後は筋電図法などを動作解析およびキネティクスに併用して,さらに研究を進める必要がある.
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