研究概要 |
現在、生涯スポーツを標語にしたスポーツ振興策が進む中、登山ブームが中高年層におこっている。登山が他のスポーツと大きく異なるのは低い酸素分圧の環境下で運動するため、体内の酸素分圧低下、体液貯留がおこり、急性高山病の症状が時としてみられることである。従来から低酸素環境下において呼気終末に陽圧を負荷する終末呼気陽圧呼吸を行なうと体内の酸素不足が改善されると報告されている。しかし従来の研究は安静時を対象としており,終末呼気陽圧呼吸が実際の低酸素環境下での運動時(高所登山など)に効果があるのか否か検討されていない.そこで本研究は健常な男性2名,女性3名の計5名を対象に長野県木曽駒ケ岳においてフィールド実験を行なった.実験は標高2600m前後の木曽駒ケ岳千畳敷周辺(緯度35°46′,経度137°48′〜137°49′)で行なわれた.実験日の現地状況は前日まで積雪がかなりあり,ラッセルが膝上まであった.測定は携帯型生体情報記憶装置を用いて動脈血酸素飽和度(光透過型),呼吸(サーミスタ,ゴム管抵抗),心電図,筋電図(口輪筋)を同時測定した.呼吸法は通常呼吸,終末呼気陽圧呼吸の両方を交互におおよそ10分交代で行なうよう被検者に指示した.なお呼吸法の切り替え時は5秒間イベント電圧を入力した.結果と考察 終末呼気陽圧呼吸を正確に行なえたか確認するため,口輪筋の積分筋電図,呼吸時間等を通常呼吸と比較すると終末呼気陽圧呼吸は正しく行なわれていた.終末呼気陽圧呼吸の動脈血酸素飽和度は通常呼吸より高値を示す傾向にあった.昨年度の研究結果と本研究結果から終末呼気陽圧呼吸の酸素飽和度上昇効果は雪山登山が自転車運動,トレッドミル上の歩行より高かった.このことから低酸素環境下の運動において終末呼気陽圧呼吸の効果を引き出すためには雪山登山のような非常にゆっくりとしたテンポの運動が必要であると推察された.
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