研究概要 |
活動制限期間中に負荷したレジスタンス運動の萎縮抑制効果が,加齢に伴い低下する機序を解明する目的で,本年度は運動の筋萎縮抑制効果と熱ショック蛋白質70(Hsp70)の発現変化との関係について検討した.4,10,20ヶ月齢のFischer344系雌ラットを,各月齢で対照群,懸垂群,懸垂運動群の3群にグルーピングした.懸垂期間は3週間とした.懸垂運動群には,等尺性の筋力発揮を主体とするレジスタンス運動を1日1回,30分間,週6日負荷した.被検筋はヒラメ筋とした. 懸垂により最大張力,筋横断面積あたりの最大張力の低下がみられ,前者は筋原線維蛋白含有量の低下に,後者は筋原線維蛋白濃度の低下に起因していた.懸垂に伴うこれらの張力発揮能の低下に対する加齢の影響はみられなかった.懸垂により単収縮の収縮時間は短縮し,速筋化が確認された.この機能的変化はMHC IからMHC IIb方向のMHC構成比率のシフトにより説明された.この速筋化は加齢により低下する傾向が観察された.Hsp70の発現は懸垂により低下したが,レジスタンス運動により抑制された.また,懸垂により過酸化脂質濃度の低下が観察された.レジスタンス運動負荷は懸垂により低下した最大張力,筋原線維蛋白濃度の減少を抑制し,単収縮の収縮時間の短縮とMHC構成比率のシフトを抑制した.懸垂による筋萎縮と速筋化に対するレジスタンス運動の効果は加齢に伴い低下したが,Hsp70の変化との関係は明らかでなかった. 本研究結果は,懸垂による筋萎縮や運動による筋量保持効果には,Hsp70の発現変化が関係していることを示唆する.しかし,レジスタンス運動の萎縮抑制効果が加齢に伴い低下する機序をHsp70の発現変化からは解明できなかったことから,他の筋量保持に関与する細胞内情報伝達系の活性化からの検討が必要と考えられた.
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