研究概要 |
平成14年度は,まず本研究に深く関連する宗教地理学の展望論文を執筆した。次に青森県岩木町において,自然環境と信仰との関わりをテーマとする資料収集・現地調査を行うとともに,2年間の研究成果を学術論文および図書として発表した。 近年の宗教地理学では,以下の4つの特徴が指摘された。第1には,宗教の分布や伝播状況を通して,信仰がどのように地域(住民)に受容されていったのかを明らかにする研究。第2に,都市・村落において宗教が地域集団の存立や機能,あるいは文化景観にどのような影響を与えているかという研究。第3には,自然環境,主として気候や地形が宗教の生成や信仰形態にどのような影響を与えているかという研究。第4として,巡礼や遍路などの宗教現象を介して生まれる地域間のネットワークや社寺参詣といった大衆的な宗教行動がもたらす社会経済的な現れとしての観光との関わりを扱う研究である。 金村別雷神社(茨城県つくば市)の信仰圏を事例に各信仰圏域がもつ空間的意味を明らかにした。第1次信仰圏では,金村信仰が在地の産土神や遠来の利益神に対する信仰とは異質の鎮守神として地域に受容されている。このことは,個人崇敬者の祈願内容や住民の参拝行動,集落行事との関わりから明らかにした。第2次信仰圏では,氏子組織や他の杜寺参詣組織から自立した,独自の宗教組織が形成されている点を指摘した。このことは,世話人の継続性と自立性や構成員の独立と代参制度の確立,講行事の存在から実証された。崇敬祈願社が勧請された地域には,既存の産土社に対する信仰が地域の信仰的基盤を形成しているが,崇敬祈願社に対する信仰は,この産土社信仰を包摂する形で,近隣地域における鎮守神として受容される。これに対し外縁地域では,御利益に基づく遠来の利益神として受容される。信仰形態としては講が組織され,集団による参拝が核となることが明らかにされた。
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