現在においても、アフリカのウッドランド帯には民族文化、および地域の自然環境と強く結びついた焼畑農耕が数多く展開されている。人びとは民族特有の焼畑を開墾しており、開墾適地を求めて親族集団を単位に移動しつづけている。焼畑を中心とするアフリカ在来農法の特質のひとつとして、過剰な生産を指向せず社会内部での平準化を基本とする生産様式であることが指摘されてきた。このような「粗放」な生産様式は、一定の条件下では、少ない労働投入で必要な収量を確保できる効率的な農業であることが明らかにされてきている。構造調整政策が浸透する状況下で、人びとが食糧を自給するうえで在来農法が重要であるにもかかわらず、外部社会からの焼畑に対する評価はきわめて低い。本研究では、低投入型である在来農法を再評価し、その農業生態を明らかにすることを目的としている。 本年度においては、ブジミ耕作と呼ばれるカオンデの焼畑農耕の農業生態に焦点をあてて、調査を実施した。ブジミ耕作には、樹木を伐採し、伐採木を積み上げて火入れするモンデ、火入れせず、乾季に地表面を軽く耕作するマセンゲレ、雨季にマウンドを造成するミララという3農法が内在している。カオンデの人びとは3農法を併存することによって、雨季に集中しがちな労働時間を6ヶ月にも分散することが可能となっている。3農法の土壊養分の集積様式を明らかにするために、採取した土壌サンプルを分析し、窒素、炭素、リン酸、カリウム、pHなどを計測した。火入れされるモンデでは、地表面0-10cmの浅い土壊層において大量の窒素やカリウムが供給されている一方で、マセンゲレにおいては、草本バイオマスのすきこみによって地表面0-10cmに窒素や炭素が土壊に還元されていた。ミララにおいては、マウンドへの草本バイオマスのすきこみによって地表面10-20cmの部分に土壊養分が蓄積されていた。このようにブジミ耕作においては、多様な土壊を用意しておくことによって、畑内部の多様性を増加させ、モロコシという重要な主食作物の生産が安定化するように図られていた。
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