研究概要 |
スペクトル密度に関する検定問題の典型は1.(正規)定常過程のスペクトルが与えられたスペクトルに等しいか?、すなわちH1:f:f0 2.2つ以上の互いに独立な(正規)定常過程のスペクトルがすべて与えられたスペクトルに等しいか?、すなわちHa:f1=...=fa=f0 3.2つ以上の互いに独立な(正規)定常過程のスペクトルがすべて等しいか?、すなわちHa':f1=...=faの3つである。昨年度は検定1と検定2におけるBahadur漸近有効性を念頭に、カーネルスペクトル推定量に対してsup-norm型統計量の大偏差確率評価を与えた。しかしカーネル推定の宿命としてカーネル推定量を規定するバンド幅を標本数に依存させて決めねばならないから、結果として標本サイズより緩いオーダーでの収束になっていたのである。本年度はそれを回避することをまず試み、そして検定3のいわゆる同等性検定も追加した。そのため統計量はピリオドグラムを積分した経験スペクトルから構成することにした。a標本問題は1標本問題の拡張として議論できる場合が多かった。特にsup-norm型統計量の大偏差確率を扱う際、昨年度カーネル法で議論したアプローチを改良して、任意の半区間[x,∞[,あるいは]x,∞[で大偏差確率の上限評価を行った。また検定3では共通のスペクトルが未知であるため検定問題は複合帰無仮説であって、ある種のコンパクト性を仮定した下で関数空間上のsupとして大偏差確率のrateを計算する問題へ帰着され、それらをテクニカルレポートとしてまとめた。Kuiper型統計量がKS型統計量よりもBahadur漸近効率の意味で劣ることはないという結果はiidでの古典的な先行研究から予想される。しかし本研究のスペクトル検定において統計量の分布が帰無仮説のスペクトルに依存する点は特徴的である。このような事実はiidの多くの先行研究には見られず、したがって今回追加した検定3への取り組みはさらに改良する余地があろう。また今年度の研究から、昨年度の成果であるカーネルスペクトル推定量の大偏差確率評価も制限された半区間だけでなく任意の半区間へも拡張される見込みがあることから再検討をはじめた。
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