研究概要 |
本研究の目的は誤り訂正符号の復号誤り確率の評価を通して,情報理論と統計力学の性能評価法の関係を明らかにすることである.昨年度は情報理論で発展してきた性能評価法であるGallager形式に統計力学で開発された評価法であるレプリカ法を導入しその類似性と相違点を明らかにした.今年度は,情報理論におけるもう一つの有力な性能評価法である,典型系列解析とレプリカ法の類似性を考察した.具体的適用対象として,現時点で世界最高レベルの誤り訂正能力を持つ符号族として知られている低密度パリティ検査符号を取り上げ,典型系列解析の評価過程を詳細に吟味した.その結果,以下のことが明らかになった(Phys.Rev. E 66 036125(1-6)(2002)). 1.典型系列解析における誤り確率は,「受信語と矛盾しない典型的なノイズ系列が真のノイズ以外に存在する」確率で定義される.この確率は「…」で表現される事象が起きるか否かを1,0で表現するインジケータ関数をノイズの発生確率で平均化したものである.このインジケータ関数を状態和によって表現すると,レプリカ法と類似した表現が形式上自然に得られることが分かった. 2.そこで,統計力学におけるレプリカ法の計算手続きに従い誤り確率を評価したところ,パリティ検査行列が密行列で表現される場合には,情報理論で知られている厳密解と一致することが分かった.ただし,実用上重要なパリティ検査行列が疎行列で表される場合には厳密解は知られていない.そこで,情報理論で知られている上界とレプリカ法の結果を比較すると,レプリカ法が一般的に評価値を改善することが分かった. 以上の結果から,情報理論の計算法とレプリカ法は,その根元は共通しているが,計算の技術的な面で相違していることが分かってきた.今後はレプリカ法など統計力学的評価法を情報理論に根付かせるため,その正当性をより詳細に吟味する計画である.
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