研究概要 |
グリシンの生体内での分解反応は4種類のタンパク質(P, H, T, L)からなる多酵素複合体であるグリシン開裂系によつて触媒される。本研究は、グリシン開裂系の構成タンパク質さらにはそれらの複合体のX線結晶構造解析を行うことにより、代謝経路全体を原子レベルで解明することを目的としている。研究方法としては、高度好熱菌Thermus thermophilus HB8由来のタンパク質を用い、まず単独成分で立体構造を決定し、次にそれらの構造をもとにグリシン開裂系を超分子複合体として構造解析する方針ですすめた。昨年度までに、全構成タンパクの大量発現系の構築と精製をおこない、HおよびLタンパクの構造決定とPタンパクの結晶化に成功している。今年度の研究経過を以下に示す。 (1)Pタンパクの結晶化および予備的回折実験:Pタンパクは分子量約20万のα_2β_2テトラマーのビタミンB6酵素であり、グリシン開裂系の第一ステップの反応である脱炭酸反応を触媒する。昨年度に引き続き結晶化条件の最適化をすすめた。c軸が371Åと長いため回折斑点を分離することが課題となっていたが、SPring-8のBL45XUにてR-AXIS Vを検出器に用いて測定したところ分離に成功し、2.4Å分解能のデータセットを収集することができた。結晶は空間群P3_121またはP3_221に属している。溶媒含量および自己回転関数を計算したところ、2回軸で関係付けられた(αβ)_2が非対称単位に1つ存在することがわかった。現在、重原子多重同形置換法による構造決定をすすめている。 (2)Hタンパクの構造解析:2.5Å分解能で構造精密化を行った。マメのHタンパクと比較したところ、構造上よく保存されている領域を見出した。また、分子表面の静電ボテンシャルもよく保存されていることから、他の構成タンパクとの相互作用に関与する領域であることが示唆された。
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