本研究では、ヘムが持つ潜在的な機能を探求することを目的として、ヘム蛋白質が本来の基質とは異なる分子に遭遇した時におこる化学反応を検証した。具体的には、(1)本来は過酸化水素を利用して酸化反応を行うペルオキシダーゼが、亜硫酸(還元剤)存在下では、酸素分子を用いて酸化反応を触媒すること(2)あるミオグロビン変異体では、過酸が存在すると過酸化水素ではおこらない芳香環への酸素原子付加反応がおこること(3)アスコルビン酸(還元剤)存在下でミオグロビンのヘムが好気的にかつ立体特異的に分解されることなどを見出し、その反応機構を考察した。 さらに、通常とは異なるユニークなヘムの役割が期待されるヘム蛋白質の一例として、シスタチオニンシンターゼを取り上げ、ヘム結合ドメインの役割を検証した。その結果、本酵素は、(1)ペルオキシダーゼのように過酸化水素存在下で一電子ないし二電子酸化反応を行うことが出来ないこと(2)ミオグロビンやヘモグロビンのように安定な酸素付加体を形成することが出来ないこと(3)ヘム鉄の酸化状態に応じて酵素活性が変化することなどを明らかにした。今のところ、シスタチオニンシンターゼのヘム結合ドメインは、酵素活性の制御に関与していると考えている。現在、「ヘム鉄の酸化状態による酵素機能の制御を裏付けるさらなる証拠の蓄積」と「メディエーター存在下で光によりヘム鉄の酸化状態を調節することで本酵素の活性を自在に制御する仕組みの構築」を目指して実験を継続している。
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