研究概要 |
細菌から高等動植物まで生物に広く存在するNa+/H+交換輸送蛋白質は細胞膜内外のNa+とH+を交換輸送することにより細胞内pHやNa+濃度を調節し,その結果,細菌および植物の高塩環境適応や高等動物の細胞増殖,細胞体積の調節などに関わる極めて重要な因子である。これらの現象にはNa+/H+交換輸送蛋白質の厳密な制御が不可欠であるが,その活性制御やイオン輸送の分子機構は未だ十分に解明されていない。本研究では,Na+/H+交換輸送蛋白質の中でも,主に細菌由来のNhaAについてその制御機構を解析した。加えて,酵母由来のNha1,高等動物(ラット)のNHEについても類似の側面から解析を行った。大腸菌NhaAと胃潰瘍の原因菌H.pylori菌NhaAは高い相同性をもつが,そのpHによる活性変化が大きく異なる。両者のキメラ蛋白質を作ることでその原因領域を同定した(J.Biochem.129,569)。さらに,ランダム変異導入により大腸菌NhaA様に活性が変化した変異体を多数分離した。特に,重要な領域についてはCys走査変異法でそのトポロジーを解析した(投稿準備中)。酵母Nha1については,交換輸送をおこなう膜貫通領域に加えて細胞質に突出した細胞質領域が存在するが,分類学上離れた酵母種から多数Nha1をクローン化し,一次配列の比較と欠失変異体の解析により,細胞質領域に機能的に重要な領域があることを見出した(J.Biochem.131,821)。高等動物のNHEについては,同じく細胞質領域に結合し,その輸送活性を制御する因子CHP2を新たに同定した。CHP2は腸管上皮細胞および腎臓近位尿細管上皮細胞で高発現しており,NHEの重要な機能の一つであるNa+の吸収(再吸収)に関与していることが示唆された(Biol.Pharm.Bull.26,148)。
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