研究概要 |
プロスタグランジン(PG)産生は刺激の種類により二通りの応答性、すなわち細胞内カルシウム濃度を上昇させる刺激による一過的なPG産生である即時的応答(分単位)とサイトカインやLPS等の刺激による持続的なPG産生である遅発的応答(時間単位)があり、cPLA2は両応答に必須である。このcPLA2の活性調節機構をそのアダプター分子ビメンチンとの相互作用を中心に解明することを目指した。cPLA2とビメンチンはともに細胞内カルシウム濃度上昇に伴ってそれぞれ複数の部位がリン酸化されることが知られている。cPLA2はMAPキナーゼ(MAPK)とMAPKにより活性化されるキナーゼ群によりリン酸化され活性上昇することが報告されている。前年度までに、カルシウムにより制御を受けるCaMKIIに注目し、その特異的阻害剤であるKN-93をラット線維芽細胞株に前処理した結果、カルシウムイオノフォア刺激に伴うPGE2産生が顕著に抑制された。このときMAPキナーゼの活性化にKN-93は影響しなかったことから、MAPキナーゼを介さない経路でcPLA2が活性化される可能性が示唆された。一方、ビメンチンはcPLA2との結合部位であるヘッドドメインに多数のリン酸化サイトが存在し、PKA, PKC, CaMKII, Rhoキナーゼ等によりリン酸化されることが報告されている。そこで、本年度はCaMKIIによりリン酸化されることが予想される38番目と82番目のセリン残基に変異を導入したビメンチンcDNAを作製し、ビメンチン非発現細胞株に遺伝子導入しイオノフォア刺激に伴うアラキドン酸産生を検討した。その結果、それぞれのsingle mutantは対照細胞(天然型ビメンチン強制発現細胞)と同程度のPGE2産生を示したのに対し、両方の部位に同時に変異を導入した。 double mutantをトランスフェクトした場合は、天然型を導入したものに比べてアラキドン酸産生が減少する傾向が観察された。従って、ビメンチンのCaMKIIリン酸化サイトの両方がリン酸化されることがアラキドン酸代謝の正常な進行に重要であることが示唆された。
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