研究概要 |
染色体DNAの複製は、細胞周期、発生過程において厳密に制御される。ゲノム複製の開始に関与する幾つかの蛋白質が真核細胞で同定されているが、特に複製起点上の複製装置の因子であるMCM (minichromosome maintenance、染色体保持)蛋白質群は中心的な役割を果たす。MCMは6個[MCM2-7]の構造的に類似したタンパク質からなる複合体で、ライセンス因子の本体であり、複製開始に必須である。また、複製開始後、何らかの機構で不活性化され、再複製の抑制に関与する。 我はMcm蛋白質の精製を始め、MCM複合体を構成する6種類のサブユニットの中で、組み換え蛋白質Mcm4,6,7複合体が内在的に二本鎖DNAを巻き戻す機能(DNAヘリカーゼ)、DNA結合能、DNA依存性ATP加水分解能をもつことを明らかにした(MCB 1999)。昨年までに、MCM4,6,7ヘリカーゼの変異体解析から、MCM4とMCM6のATP結合ドメインはそれぞれDNA結合およびATP結合に関与すること、MCM7のATP結合ドメインはMCM4,6,7ヘリカーゼ活性に必須であること、およびMCM4のZinc-fingerは安定なMCM4,6,7 6量体の形成に関与することを明らかにし報告した(JBC 2002)。すなわち、各サブユニットがDNAヘリカーゼに対して異なる貢献をしていることを明らかにした。本年度は、MCM4,6,7は、フォーク構造にダブルヘキサマーとして結合し、その結果そのヘリカーゼ活性が著しく促進されることを見出した。また、MCM4,6,7は活性化された複製開始領域をmimicするバブル構造(二本鎖が解離した領域を中央に含む二本鎖DMA)にダブルヘキサマーとして結合し、二本鎖領域を開裂できることを示した。さらに、バブル(一本鎖に解離している領域)の配列の影響を調べた結果、AT-richな配列の場合、MCM4,6,7は高い親和性で結合し、強いDNAヘリカーゼ活性を示すことが明らかとなった。一般にDNA複製開始領域がAT-richであることを考慮すると、MCM4,6,7複合体は二量体として複製起点領域に選択的に結合し、複製フォークで効率よいヘリカーゼとして二本鎖DNAの巻き戻しを,行なう可能性を示唆する。
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