研究概要 |
(目的)本研究の目的は、タンパク質フォールディングにおける部分的天然構造の役割を理解することである。そのために、α-ラクトアルブミンのD-ヘリックスをウマリゾチームのD-ヘリックスのアミノ酸配列に置換したキメラ蛋白質を作製し、モルテングロビュール状態での非天然構造を天然構造へと変化させる。重水素交換ラベル法と2次元NMR法を組み合わせた方法を用いることによって、キメラ蛋白質のフォールディング反応を残基レベルで追跡し、モルテングロビュール状態の部分的天然構造がタンパク質フォールディングにどのような影響を与えるのか調べる。さらにNMRを用いてキメラ蛋白質の運動性解析や立体構造解析を行い、ヘリックス置換の影響について調べる。 (結果)マニュアルミキシングによる重水素交換ラベルを行うには、タンパク質フォールディングが十分遅い反応である必要がある。まずはキメラタンパク質のフォールディング反応を遅くすることを試みた。アルコールなどの有機溶媒や様々な塩を加えることによってフォールディング反応がどのように変化するのか調べたが、変性する速度に著しい違いが現れる条件をいくつか見つけるにとどまった。巻き戻り速度(リフォールディング速度)については、マニュアルミキシングを可能にするほど反応を遅くすることができなかった。 15Nで安定同位体標識したキメラタンパク質を用いてT1,T2,NOE測定を行い、モデルフリー解析を行うことによって主鎖の運動性を解析した。その結果、キメラタンパク質のD-ヘリックスの運動性は著しく制限されており、ピコ秒〜ナノ秒の運動、マイクロ秒〜ピコ秒の運動性が共に低いことを明らかとした。 運動性やフォールディング反応と立体構造との関連を調べるためにキメラタンパク質のNMRデータから立体構造を決定しようと試みた。現在NOEピークの帰属中であり、また、変異を導入したD-ヘリックス近傍では、野生型と比較してNOEのパターンが異なることを見出した。
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