浸透圧ストレスは出芽酵母の翻訳開始を一過的に停止させ、アクチン骨格も一過的に脱極性化する。申請者は培地からのグルコース除去も翻訳開始の急速な停止だけでなくアクチン骨格の急速な脱極性化を引き起こすが、それらの反応も一過的である事実を見い出した。これは翻訳開始とアクチン骨格の両者が環境ストレスにより同時に制御される機構の存在を示している。この制御機構を明らかにするため、グルコースによるアクチン骨格の極性と翻訳開始の挙動を解析した。 グルコースによる遺伝子の転写抑制に必要なA-キナーゼの変異株(tpk1w)やGlc7ホスファターゼの制御サブユニットの破壊株(reg1)では、グルコース除去後の急速な翻訳開始の停止やアクチン骨格の脱極性化は起こらなかった。またアンチマイシンAにより呼吸を阻害した野生型株、グルコースによる転写の脱抑制に必要なSnf1キナーゼやMsn2/4転写因子の遺伝子破壊株では、グルコース除去後の急速なアクチン骨格の脱極性化や翻訳開始の停止は起こるが、その後の再極性化や翻訳再開は起こらなかった。しかし呼吸阻害条件下でもグルコース飢餓細胞にグルコースを再添加するとアクチン骨格の急速な再極性化が起こった。グルコース再添加による細胞内cAMPの一過的上昇が起こらないGpr1グルコースレセプターやGpa2 GTPaseの遺伝子破壊株でも、この再極性化は正常に起こることから、cAMPの一過的上昇はこの反応には関係ない。従ってグルコースによるアクチン極性と翻訳開始の制御は、(1)A-キナーゼやReg1が関与するグルコース除去後の急速な停止、(2)呼吸、またSnf1やMsn2/4に依存したグルコース非存在下での適応、(3)呼吸やcAMPの一過的上昇に依存しないグルコース再添加による急速な回復、の3つの反応に分類され、転写と共に統括的に制御されていると考えられる。
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