私の目的は、小胞体ストレスセンサー蛋白質Ire1の活性制御メカニズムを解明することである。そのために本研究で私は、出芽酵母BiP遺伝子変異株の、詳細な表現型解析を行った。BiPは、小胞体内在性のHSP70ファミリー分子シャペロンである。以前に私は、非ストレス条件下で培養された出芽酵母細胞内では、BiPとIre1は会合しており、小胞体ストレスを与えると、それが解離することを見いだしている。今回の研究では、用いた5個のBiP遺伝子変異株は、その表現型に応じて、2種類に分類できることが分かった。3個のBiP遺伝子変異株では、小胞体ストレス状態においても、BiPとIre1の解離が認められず、かつ、Ire1は活性化しなかった。一方、残り2個のBiP遺伝子変異株では、非ストレス条件下でもBiPとIre1の会合は弱く、Ire1は常に活性化していた。これらの知見は、BiPとIre1の物理的な相互作用が、Ire1の活性を制御していることを示している。また私は、シャペロン基質となるモデル折り畳み不全タンパク質とBiPとの結合状態を、上記のBiP遺伝子変異株で調べた。その結果と、上述のBiP-Ire1の会合/解離の異常を比べることにより、モデル折り畳み不全タンパク質とIre1は、同一の様式でBiPと物理的相互作用することが示唆された。このことは、構造異常タンパク質とIre1が、BiPとの結合を巡って競合することを意味する。小胞体ストレス条件下では、小胞体に蓄積した大量の構造異常タンパク質がBipに結合し、その結果、BiPと結合出来なくなったIre1が活性型となり、小胞体ストレス応答を引き起こすと考えられる。
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