ROS3遺伝子は、主要膜リン脂質ホスファチジルエタノールアミン(PE)の膜配向性に異常を来した酵母変異株の原因遺伝子として単離した。ROS3遺伝子がコードする分子(ROS3分子)は、主として形質膜に存在する2回膜貫通型糖タンパク質であり、糖鎖結合部位の解析からC末端、N末端が共に細胞の細胞質側に配向している。また、ROS3遺伝子を特異的に欠損した酵母株では、形質膜外層から内層へのPE輸送が野生株の1/10に低下することから、ROS分子は形質膜上におけるPEの脂質二重膜間輸送(フリップ-フロップ)を促進することにより、その膜配向性を制御していると考えられる。 本年度は、まず、GFP(Green Fluorescence Protein)を結合させたROS3分子をROS3欠損株に発現させてその細胞内分布を詳細に検討したところ、ROS3分子は意外なことに主として小胞体に分布し、一部はラフトと呼ばれる形質膜の特殊領域に存在することが分かった。この結果は、ROS3分子が細胞周期や細胞の状態等に応じて小胞体から形質膜へと輸送されている可能性を示唆している。次に、データベース検索から酵母遺伝子上にROS3遺伝子に高い相同性(約60%)を有する遺伝子が2つ存在することを見出し、それぞれを特異的に欠損させた株を作成し、脂質輸送活性について検討したところ、全く変化が見られなかった。ROS3分子と他の2遺伝子にコードされる分子では、細胞質に存在すると思われるN末端領域が異なっている。よって、現在、N末端領域と脂質輸送活性との関係についてキメラ分子を作成することで検討している。
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