研究概要 |
胚発生の開始には,卵形成の過程で合成され卵内に貯蔵されている母性因子が重要である。これら母性因子の多くは,mRNAとして卵内の特定の領域に局在化し,局在化した領域でのみ時期特異的に翻訳され機能する。このような母性RNAの時間的・空間的制御には,母性RNAとRNP複合体を形成するタンパク質が重要である。 私たちは,ショウジョウバエ卵形成過程において,Me31Bが母性RNAの輸送と翻訳とを連携させているRNP複合体の構成タンパク質であることを明らかにしてきた。本研究では,Me31B複合体の新規構成タンパク質の同定とその分子機能の解析を行った。 抗Me31B抗体を用いた免疫沈降により,卵巣抽出物よりMe31B複合体を精製した。次に,共沈するタンパク質についてマススペクトロメトリーを用いて同定した。その結果,翻訳開始因子eIF4EとCupタンパク質が,Me31B複合体の構成タンパク質であることが明らかになった。次に,RNase存在下における免疫沈降実験によりMe31B-eIF4E, Me31B-Cup間の結合はRNA依存的であることを明らかにした。一方,eIF4E-Cupの結合はRNA非依存的であった。さらに,GST pull down assayにより,eIF4EとCupはin vitroにおいて直接結合できることを明らかにした。また,cup突然変異体においては,oskar mRNAをはじめとする複数の母性mRNAがprematureに翻訳されていることを見出した。以上の結果は,(1)Cupがさまざまな母性RNAの輸送・局在化過程における翻訳制御に重要な役割を持っていること,(2)Cupを介した翻訳抑制が翻訳開始因子であるeIF4Eの機能を制御することにより行われていることを示唆していると考えられた。
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