研究概要 |
神経因性疼痛については、近年いくつかのモデル動物における研究から主に脊髄や末梢レベルでの機構の解明が進んできており、末梢神経病変とともに中枢にける可塑的変化が疼痛の慢性化を促す要因になっていると考えられている。神経の可塑的変化には神経伝達物質やサイトカイン、神経栄養因子などが深く関与するといわれているため、本研究ではなかでも神経栄養因子についてその神経因性疼痛発症への関与に注目して研究を始めた。 まず、神経栄養因子である、NGF、BDNF、NT-3、NT-4、GDNFのmRNAおよびタンパク質の定量系として競合的RT-PCR及びtwo-site EIAを確立した。その系を用い、ラット骨格筋(gastrocnemius, soleus)における神経栄養因子の正誤の発現変化を調べたところ、それぞれの物質が筋肉ごとに異なる発現パターンを示し、タンパク質の発現変化とmRNAの発現変化に乖離が見られた(Neuroscience Research, 2003(in press))。これらの神経栄養因子は遺伝子転写後、タンパク質生成の過程で複雑な制御機構があるものと思われる。 神経因性疼痛の発症に関与するとの示唆のあるNGF及びGDNFについて、モデルとして広く用いられる坐骨神経結紮動物で、脊髄、後根神経節(DRG)、坐骨神経におけるタンパク質量変化を調べたところ、NGFは坐骨神経結紮部位で減少、GDNFはDRGで減少することがわかった。もうひとつのモデル動物である脊髄神経経結紮動物においても、GDNFはDRGで減少した。また、GDNFの脊髄へのポンプを用いた継続投与が両モデル動物において疼痛を抑制した。脊髄-末梢レベルでは神経因性疼痛の発症にNGF及びGDNFが関与するとする示唆を支持する結果が得られた(一部について論文発表。J Medical and Dental Sciences,2003(in press))。一方、栄養因子の受け手側である受容体についてもDRGにおいて免疫組織化学的に検討しているが、NGFの受容体であるtrkA及びGDNFの受容体であるGDNF-Rαともにモデル動物では減少傾向が認められている。
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