匂いの感覚細胞である嗅細胞の順応には匂い刺激後に流入するカルシウムイオン(Ca)が必要であることが示されている。しかし、その分子機構の詳細はまだ明らかではない。最近、我々がカエル嗅上皮からクローニングした新規のCa結合蛋白質、p26olfは匂い受容の場である嗅繊毛に局在し、匂い受容体の脱感作に関与すると考えられているβ-アドレナリン受容体キナーゼとCa存在下で結合することが示唆されている。そこで、本研究では、p26olfの嗅細胞におけるCa依存的な順応調節の可能性を検討した。 まず、これまでの結果から、p26olfが匂い受容過程のリン酸化反応に関与する可能性が考えられたので、嗅繊毛におけるリン酸化反応を解析した。単離した嗅繊毛を用いた実験から嗅繊毛内に主要なリン酸化蛋白質(〜45kDa)が認められた。この主要なリン酸化蛋白質のみかけのリン酸化量はG蛋白共役型受容体キナーゼによるリン酸化と、Ca依存性ホスファターゼによる脱リン酸化のバランスの上に成り立っていることがわかった。匂い刺激後の高Ca濃度状態ではみかけのリン酸化量は減少していたことから、このリン酸化蛋白質が繊毛内Ca情報伝達系に関与する可能性は高いと考えている。現時点では、この蛋白質のリン酸化へのp26olfの影響は確認できていない。 p26olfのCa依存的な生理作用を考える上で、p26olfのCa結合能、Ca親和性を明らかにすることは重要である。そこで、p26olfのCa結合特性を平衡透析法により解析した。その結果、p26olfの4ケ所の推定Ca結合部位全てにCaが結合する一方で、その各Ca結合部位は異なったCa親和性をもち、ある特定の順序でCaが結合する可能性を示した。この結果からp26olfは実際に嗅繊毛内のCa濃度を検出し、嗅繊毛内Ca情報伝達系に関与する可能性が示された。
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