研究概要 |
今回の研究は、権利生成の比較法的考察を加味しながら、権利・ルールの二元論を再検討し、現代的な法秩序の全体構造をより適切な視座から解明することを志している。こうした狙いから、人格権や環境権などの新しい権利をめぐる裁判現象を視野に入れつつ、ホーフェルド、ハート、アレクシー、ドゥオーキン、ケルゼンなどの権利論を検討したその過程で、デュギー、オリベクローナ、ヘーガァストレームなどの様々な立場からの痛烈な権利否認論、さらにはブッヒャーやアイヒャーたちの新しい権利論に直面した。このような幅広い視角から権利・ルール二元論を再構成しようとした結果、通常の諦観的な二元論を媒介的な二元論へと転換させることに成功した。 こうした論点を判例法主義と制定法主義という異なった法体系のコンテクストのなかで追究した成果のエッセンスは、"A Perspective on Comparative Legal Methodology and its Barriers"という論文により、既にArend Soeteman(Ed.), Pluralism and Law, Kluwer Academic Publishers, Dordrecht/Boston/London 2001, PP. 279〜294において発表することができた。これにより、この研究に対する概ね肯定的な国際的反響を窺い知ることができる。筆者は現在著述中の法理学体系書のなかで権利に関する章を草し終えたところであるが、権利否認論と権利至上主義との対立軸を止揚するという、本研究から得えられた成果をその中にもりこんでいる。本研究の遂行を通して、日本における権利論が国際的な水準からかなりかけ離れたものであること、他面で世界の現代的視座においても、多くの未解決の課題が残されていること、を改めて痛感した次第であるが、今回の研究がそれらの未解決課題の克服に多少とも前進をもたらしていると評価されるならば、嬉しいと思う。
|