研究概要 |
本年度前半は,Prolog言語への組込みを実際に行うことに努力を傾注し,ある程度の技法(たとえば,ある理論的立場を表現するために,法概念ごとに別個の述語(predicate)を作るのではなく,法概念,内容,その他の属性などを組合せた命題のデータベースを作る)を習得した。その際,どのような種類の属性の組合せを命題の単位とするか(プログラム用語では,データ構造の決定というようである)は,かなり困難な問題であって,今回の研究では暫定的なものを用いたにとどまり,完全な解決を得ることはできなかった。 「危険」概念を命題データベースとして表現することには,昨年度と同様の困難を感じた。すなわち,たとえば「具体的危険」「抽象的危険」における「具体的」「抽象的」の内容は,これまで厳密に定義されたことはほとんどなく,これに何らかの定義を与えてプログラムを動かすと,その定義(あるいはその定義を採用する前提となる立場)から当然導かれる,いわば「自明」な結論しか得られない。これは,今回使用した命題が,ごく限られた理論領域のものであることに起因するとも考えられ,今後,広い範囲の問題に関する命題を蓄積してゆけば,創発的な結論が得られることもあると思われる。 今回の研究では,法命題,及びそこで用いられる概念が,かなり直感的で漠然としたものであること,これを裏返せば,法的判断が(漠然とした概念を用いて論理を組み立てるという)人間の微妙な感覚に支えられた技芸(art)であることを,再認識した。当初の計画を十分に果たすことはできなかったが,犯罪論を考え直す有益な機会とすることができた。今後は,こうした思考作業の教育面への応用を視野に入れつつ,(Prolog言語による処理も試みながら)さらに研究を続けてゆきたい。
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