研究概要 |
圧力や温度変化によって電気を発生する圧電性や焦電性は,結晶が特定の対称性を持ったときに発現される性質である。そこで,多彩な構造を有する遷移金属錯体を構造制御モチーフに用いることで結晶の対称性を制御し分子圧電体や分子焦電体をつくること,および構造と諸性質の関係を明かにすることが本研究の目的である。 二年間での一つ目の成果は,キラルな亜鉛(II)錯体を用いて分子圧電体をつくり,その二次焦電性を観測し,大きな焦電係数が得られることを報告したことである。次の目標は,なぜ大きな焦電係数を特っているかを明かにすることであったが,これは結晶を粉砕したことで表面積が増え,温度変化によって生じる電荷も増えるためであることがわかってきた。これが,二つ目の成果である。三つ目の成果は,粉末試料の焦電性を測定するために用いる色々なマトリクスについて評価を行い,試料の性質に応じたマトリクスをある程度見いだせたことである。通常,焦電流の測定は単結晶で行われるが,粉末試料での測定方法を開発することは,今後のこの分野の発展に寄与すると思われる。四つ目の成果はキラルな二核ニッケル(II)錯体を用いて,分子焦電体を合成したことである。X線結晶構造解析によって極性結晶であることを明らかにし,粉末試料の焦電流の観測に成功した。遷移金属錯体をもとにしてつくられた焦電体としては初めてであり,外部電場無しで再結晶によって生成するところが特徴である。
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