研究概要 |
本研究では、光応答性金属錯体と導電性有機分子とのヘテロ分子集合体を構築し、光による金属錯体のスピン制御を媒介とした有機超伝導体の光制御の探索研究を行った。光応答性金属錯体として用いたニトロシル錯体MX_5(NO)(M=Fe,Ru,Os,; X=ligand)は、低温において特定の波長の光を照射する事で、中心金属のd軌道からNOのπ^*軌道へのMLCTを起こし、これが安定状態として存在することが知られている。このイオンを、対イオンに対して非常に敏感な電荷移動型有機導体に組み込む事で、光による電気伝導度制御が期待される。そこで、多くの有機超伝導体を出現させてきた導電性有機分子であるBEDT-TTFと[RuCl_5(NO)]を組み合わせ、κ-(BEDT-TTF)_4[RuCl_5(NO)]・PhCNを得た。そこで、構造から得られたBEDT-TTF分子同士の重なりを用いて、拡張ヒュッケル法と強束縛束縛近似によりバンド計算を行い、2次元のフェルミ面を得たことから、κ-(BEDT-TTF)_4[RuCl_5(NO)]・PhCNは金属である事が予想された。しかし、電気伝導度の測定を行ったところ、半導体であった(σ_<RT>=10^<-3>,ΔE=0.45eV)。この違いは、バンド計算において電子相関(クーロン反発)を考慮していない為に、電子同士がクーロン反発により移動度を失った状態であるモット絶縁体である可能性を予測できないことに起因すると考える事ができる。そこで、κ-(BEDT-TTF)_4[RuCl_5(NO)]・PhCNの磁化率を測定したところ、χ_<RT>=10^<-3>[emu/mol]であった。この値は、一般の金属状態のBEDT-TTF塩の値より一桁大きく、モット絶縁体のBEDT-TTF塩の値とほぼ一致する。このことから、κ-(BEDT-TTF)_4[RuCl_5(NO)]・PhCNはモット絶縁体である事が示された。今後、圧力下で金属状態にした後、光照射により伝導物性の光制御を行う計画である。
|