研究概要 |
ピロールを単位構造とする大環状化合物のアニオンの捕捉能に関しては近年多くの研究がなされてきた。ピロールが4個あるいは5個からなるサフィリンやカリックスピロールはフッ素等の単原子アニオンに対して高い認識能を示すが、多原子アニオンの認識に対して有効と考えられる巨大ポルフィリノイドのアニオン認識の研究は殆どなされていない。本研究では[32]-オクタフィリンおよびより大きなポルフィリノイドのアニオン認識能について明らかにした。 1.[32]-オクタフィリンと四面体型アニオンの錯体形成 [32]-オクタフィリンのテトラ過塩素酸塩のジクロルメタン溶液を塩基で滴定した。トリエチルアミンを3等量加えた時点でモノ過塩素酸塩のスペクトルに変化したが、最後の1当量の過塩素酸は極めて解離しにくく、30当量以上の塩基を必要とした。この段階を2,6-ルチジンを用いて酸塩基滴定すると平衡定数は2.6×0^4となった。フリーベースのX線構造では菱形であった分子構造がテトラ過塩素酸塩ではほぼ正方形に変形し、その空洞の中心に1個の過塩素酸イオンが取り込まれていた。分子の外壁に2個の過塩素酸イオンが弱く結合し、相互作用のない過塩素酸イオンが1つ存在していた。4つのピロールのNHが中心の過塩素酸イオンの4つの酸素に水素結合しており、酸塩基滴定の結果を分子構造的に明らかにすることができた。 2.[32]-オクタフィリンとハロゲンイオンの錯体形成 [32]-オクタフィリンのテトラ塩酸塩のジクロルメタン溶液をトリエチルアミンで滴定すると、2当量でジ塩酸塩の特徴的なスペクトルに変化した。2,6-ルチジンを用いたジ塩酸塩からフリーべースヘの脱プロトン化過程に於いても明確なモノ塩酸塩の生成は認められなかった。このことは8の字の2つのbindingサイトに2つの塩素イオンが独立に結合したモデルで説明でき、そのような構造の錯体はVogelらによって報告されているが、滴定によってその結合様式の意味を明らかにすることができた。 3.水溶性巨大ポルフィリノイド合成の試み 水溶液中での分子認識を視野に入れて、水溶性置換基を有するポルフィリノイドの合成を検討した。P-ニトロベンズアルデヒドと2,2'-ビピロールとの反応で得た環拡大ポルフィリン(ロザリン)を塩酸/塩化スズで還元すると、3個のアミノ基を持つロザリンが高収率で得られることを見出した。
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