研究概要 |
3年計画の最終年であり,前年度までに作製した装置を用いて,ガラス融液中のCu^<2+>イオンの光吸収スペクトルについて測定を行った。具体的には,0.5CuO・99.5(25Na_2O・75B_2O_3)ガラスを作製し,その光吸収スペクトルを,温度は室温から1200K,波長は400nmから2400nmの範囲で測定した。ただし1500nm以上では試料とサファィアセルの間の散乱が生じた。 紫外吸収端は800K以下では400nmより短波長側にあり測定不能であったが,それより高温では,温度上昇と共に直線的に長波長側にシフトした。この紫外吸収端はCu^<2+>イオンの関係する電荷遷移吸収であり,Cuの3dとOの2pからなる分子軌道のうちOの2pを主体とする結合性軌道の電子がCuの3dを主体とする反結合性軸道に遷移する吸収である。温度上昇と共にCu-Oの平均原子間距離が伸びることで結合性軌道と反結合性軌道のエネルギー差が小さくなることが,吸収端の長波長シフトの原因であると考えられる。 d-d遷移のピーク波長は,室温からガラス転移温度Tg(780K)までは変化しなかったが,Tg以上では温度と共に直線的に長波長シフトした。平均原子間距離がガラスの熱膨張率に比例するのであればTg以下でもTg以上の1/3程度の温度依存性で長波長シフトするはずである。測定結果がそのようにはならなかったのは,Tg以下ではCuの配位環境は熱膨張の小さいB-Oなどの骨格構造に拘束されているためCu-O結合距離が伸びることが出来ないがTg以上ではガラスの骨格構造が柔軟に変形できるためCu-Oの結合距離はCuとOの間のポテンシャルのみで決まるようになり,そのため温度と共に長くなり,配位子場分裂が小さくなる長波長シフトを引き起こしたと考えられる。
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