研究概要 |
今年度は、昨年度に行ったモデル化合物と量子化学計算による分子設計指針に従い、全フッ素化酸無水物から合成したポリイミド(Pl)の光学物性の検討を行った。酸無水物の全フッ素化により最低非占軌道エネルギーが減少することから,電荷移動相互作用(CT)がより強く起こるとの予想通り、ジフルオロピロメリット酸無水物(P2FDA)を用いて合成したPlは、既存のPlに比べて吸収端、励起波長、蛍光波長が100〜150nmも長波長シフトするとともに、500nm付近に新たな吸収ピークが出現し、分子設計の正しさを証明できた。この酸無水物に2つの電子供与性メトキシ基を有する剛直性ジアミンを組み合わせることにより、最高占有軌道エネルギーが上昇して分子内CTがさらに起こりやすくなったため、吸収端、励起波長、蛍光波長がさらに100〜150nmも長波長シフトした。結果として、有機高分子では非常に例の少ない可視長波長〜近赤外域(700〜850nm)に蛍光発光を有する『高CT性含フッ素ポリイミド』が合成できた。このPlでは、モデル化合物で見られた局所的な分子内CTに加え、周期構造による分子内CTや分子間CTがより強く起こることから、CT性がさらに強められたものと考えられる。ついで、より立体的な構造を有する全フッ素化酸無水物:1,4-ビス(3,4-ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物(10FEDA)を用いて各種Plを合成し、光学特性の検討を行った。この酸無水物を用いた場合も、450nm付近に新たな吸収ピークが出現するとともに、既存のPlに比べて吸収端、励起波長、蛍光波長が150〜200nm長波長シフトした。さらに予想に反して、これらのPlが既存のPlに比べて10倍程度の強い蛍光発光を示すことを見出した。通常、CT性の同上は無輻射遷移の確率を高め蛍光発光を弱めるとされているが、3次元的な立体構造のために分子間凝集に墓づく濃度消光効果が弱められ、全フッ素化酸無水物部分に局所的な蛍光発光が現れたものと考えられる。今後、原料ジアミンの化学構造と電子状態を制御することによって、さらに強い蛍光発光を示す『高蛍光性含フッ素ポリイミド』の開発に注力していきたい。
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