研究概要 |
バキュロウイルス感染細胞から翻訳後修飾が可能な無細胞蛋白質生産系を構築するための基礎的技術開発を目的として、N型糖鎖付加修飾反応に焦点を絞り、まず使用する昆虫細胞の選定を行った。組換え糖蛋白質(PTTH)を数種バキュロウイルスベクター系で発現させ、付加される糖鎖の主要な構造をレクチンブロットなどで比較検討したところ、High Five細胞では、アレルゲンとなるコアα1,3フコースの分岐が比較的多いことと、サクサン細胞ではわずかに複合型糖鎖の付加がおこるなど若干の細胞間差異があるものの、いずれの鱗翅目昆虫細胞でも末端マンノースとコアα1,6フコースの分岐を有する構造が主体であった。そこで、ウイルスと細胞の両方のゲノム情報が最も豊富なカイコ核多角体病ウイルス(BmNPV)とBmN4細胞を実験材料に供試して研究をすすめることにした。その手始めとしてDNAマイクロアレイを使用して、BmN4細胞と別のカイコ培養細胞BoMoの遺伝子発現パターンを網羅的に比較したところ、想像以上に多くの違いが認められ、この違いが細胞株間の翻訳後修飾特性の差を生み出していると考察された。 BmNPVにおけるvery lateプロモーターからの糖蛋白質生産パターンの解析を容易にするために、バキュロウイルスにおける生産効率の高いラブドウイルスIHNVの表面膜糖蛋白質遺伝子の膜結合領域以降をコードする配列をヘキサヒスチジンタグ配列に置換したcDNAを作製し、BmNPV感染BmN4細胞で発現させたところ、分泌されずにゴルジ体で不溶化することが、糖鎖構造の解析と共焦点顕微鏡による免疫組織化学で明らかになった。この不溶化回避に有効な分子シャペロンの探索が今後の無細胞蛋白質生産系構築に必要な課題として残された。
|