研究概要 |
ミトコンドリアDNA (mtDNA)は、同一哺乳動物種の集団内または近縁の動物種間における遺伝的近縁関係を調査する指標として用いられている(Wayne et al.,1991).平成13年度の研究においては、本学附属家畜病院および帯広市内の開業動物病院に来院したさまざまな疾患を有する犬の品種・系統の母系効果の影響をミトコンドリアDNA (mtDNA)のハプロタイプを用いて明らかにするため、365頭の犬からmtDNAのDループの600塩基対を増幅し、その塩基配列を決定すると共に,抽出したmtDNAを用いて系統樹を作製し、それらのイヌから聴取した個体情報を主成分とした判別分析を行い、イヌの系統と特定の疾患の発症との間に関連性が見られるかどうかを検索した. 母系遺伝を示すmtDNAのハプロタイプの系統解析により得られた系統樹からは、すでに報告されている通り、遺伝的近縁関係の深い4クラスターに分類され,ハプロタイプの分類は必ずしも犬種による分類と一致せず,犬種によって系統樹上の分布が異なり,新たに発見した46種を含む64種のハプロタイプによる分類からは,複数の遺伝子集団から個体数を増やしたと推察される犬種(シーズー、ゴールデン・レトリーバー、マルチーズなど)と、ごく少数の個体または遺伝子集団から構築されたことを示唆させる犬種(キャパリア・キング・チャールズ・スパニエル、シェットランド・シープドッグ、ポメラニアンなど)に分類された.また,遺伝的系統と疾患との関連性を調べる目的で,特に症例数の多かった皮膚疾患と乳腺腫瘍について判別分析を行ったが、皮膚疾患および乳腺腫瘍のいずれにおいてもハプロタイプの疾患への影響については明確に示されなかった。 平成14年度はさらに例数を増やすと共に,疾患との関連性を明らかにする目的で健康犬についても材料採取した.すなわち,健康犬130頭と症例犬117頭の計247頭から血液採取した.犬種別では平成13年度に特に多かったシーズーについて地域差についても明らかにする目的で,帯広で6頭,札幌で38頭,広島で15頭から採取した.その他,頭数の多い順に雑種,G.レトリーバ,ミニチュシュナウツァー,L.レトリーバ・ヨークシャーテリア,柴犬と続き,雑種の他36犬種よりサンプル採取をおこなった.結果については現在,特定の犬種のハプロタイプと疾患との関連性について解析中である.
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