研究概要 |
GS-X pump活性の異なる2つの細胞株(HL-60とHL-60/R-CP)を用いて、多種類の農薬化合物(10化合物)の細胞毒性について比較検討した。その結果は、(1)高濃度(最大1,000μM)でも代謝活性化後でも細胞毒性を示さなかったもの:Bromacil、Cypermethrin、Methomyl、(2)比較的毒性が低く、代謝活性化の影響を受けないもの:Mancozeb(IC_<50> 150μM)、Simazine(IC_<50> 100μM)、Thiram(IC_<50> 20μM)、(3)比較的毒性が低く(IC_<50> 200μM)、代謝活性化でやや毒性が高くなった(IC_<50> 100μM)が両細胞間で差異がないもの:Iprodion、Glyphosate、(4)比較的毒性が低く(IC_<50> 150-1,000μM)、代謝活性化でやや毒性が高くなるが、HL-60/R-CPの方が耐性であったもの(IC_<50> for HL-60 10-20μM, IC_<50> for HL-60/R-CP 20-50μM):Pyributicarb、Thiobencarb、であった。(4)のカーバメイト系化合物は、NACと同様に、代謝活性化したときにHL-60とHL-60/R-CPに対する毒性に差が見られた。遺伝子発現についての検討には至らなかった。 本細胞系を用いてMRP1遺伝子発現を指標とする有害化合物の健康影響評価システムの開発のための基礎的検討を行ってきたが、本細胞系の正当性を検討するため、重金属の毒性発現に対する影響を詳細に検討した。その結果、Cd、Hgの細胞毒性に対して、HL-60/R-CPはHL-60よりも耐性であった。Cdの細胞内蓄積を比較したところ、濃度と時間依存的に蓄積量が増加するが、HL-60/R-CPはHL-60よりも有意に蓄積量が低かった。これにはGS-X pump活性による細胞外排出の関与が示唆された。CdやHgによる遺伝子誘導を検討したところ、メタロチオネインは処理後3時間から顕著にmRNAレベルが上昇したのに対し、MRP1は48時間後でも全く誘導が見られなかった。シスプラチン耐性機構としてMRP1遺伝子の発現誘導が示唆されているが、短時間の応答によるものでなく、持続処理で蛋白質レベルの上昇が起こるであろうと考えられた。GS-X pumpを指標とした生物学的モニタリングシステムの開発のためには、蛋白質レベルもしくは活性を指標とした系での検討が必要と思われた。
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