生体内遺伝子導入による病態修飾が可能であることが動物モデルで実証されてきたが、細胞や組織特異的な遺伝子導入が可能となれば、副作用が減り導入の利便性が増加するためさらにその有用性は増す。本研究では選択的遺伝子導入を可能とする組織特異性を有する新規ベクター(組換えアデノウイルス)の開発を目的とした。具体的目標として組織因子に特異性を持つ改変型アデノウイルスの開発をめざした。組織因子は血栓形成、炎症、細胞浸潤・遊走、がん細胞の転移、組織修復、血管新生といったストレス・傷害に対する生体反応の場でその発現が亢進している。従って組織因子特異的な遺伝子導入が可能となれば、炎症や創傷治癒そして病的血管新生部位に選択性の高い遺伝子導入が可能となり、より安全で便利な遺伝子治療の開発に繋がる。 以下の2つの方法を用いて開発を試みた。 1)ファージライブラリーを用いて、組織因子に選択的に親和性の高いモチーフペプチドを同定し、同ペプチドを外套蛋白に発現する改変型アデノウイルスを開発する。 2)アデノウイルスの外套蛋白に対する単鎖抗体と組織因子に対する単鎖抗体を融合した2価の単鎖抗体を作製し、これをアデノウイルス外套蛋白に架橋して細胞選択性を付与する。現在、組織因子への単鎖抗体は取れた段階でウイルス構築には至っていない。 濱田はアデノウイルス受容体CARに結合しないAd40の短ファイバーの末端にNG2糖蛋白(黒色腫や脳腫瘍細胞で高発現)へのリガンドを付与したファイバーを持つアデノウイルスを構築した。このウイルスは静注しても肝臓には集積せず、NG2蛋白発現細胞への選択的遺伝子導入が達成された。組織因子への親和性リガンド付与により、静注で組織因子発現細胞へ選択的に遺伝子導入できるアデノウイルスの開発が可能であることを支持する結果である。
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