重水の抗腫瘍効果を応用した悪性グリオーマ治療法の開発のために基礎研究を行った。主な検討項目は、重水の悪性グリオーマ細胞に対する殺細胞作用、アポトーシス誘導作用ならびに細胞周期に及ぼす影響の確認である。 実験材料及び方法は、マウス悪性グリオーマ細胞株(RSV-M glioma)を用い、in vitro実験系で解析した。RSV-M gliomaは、C3H/HeNマウス由来でラウス肉腫ウイルス誘発性の悪性グリオーマ細胞株である。in vitro系におけるRSV-M gliomaの継代培養は10%fetal calf serum含有完全培地を用い、マイコプラズマ陰性を常時確認した。また、4-8週齢の成熟C3H/HeNマウス大脳半球内へのRSV-M glioma細胞の生着性も確認した。抗腫瘍作用の評価は、トリパンブルー染色による生細胞カウント法とMTTアッセイ法を用いた。アポトーシス誘導作用は、DNA断片化、カスパーゼ3の活性化、細胞膜脂質の変化のそれぞれの有無で評価した。細胞周期への作用はFACS解析で評価した。 実験結果として、重水は10%〜50%の濃度域内でRSV-M glioma細胞に対し、殺細胞作用ならびにアポトーシス誘導作用を示し、その至適濃度は30%であることが判明した。さらに、RSV-M glioma細胞の細胞周期に対してはG2-M期への集積作用を示すことが確認できた。 本研究は悪性グリオーマ治療分野において世界に先駆けた内容であり、今回の研究成果は今後臨床応用に際し貢献できると思われる。
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