研究概要 |
強い痛み刺激のモデルとして高頻度刺激を用い、延髄スライスおよび脊髄スライスにおける興奮性応答の広がりが成長によってどのように変化するかを検索した。生後1,2,4,6および8週齢の各成長段階において、マウス延髄スライス標本作製し、辺縁層神経線維束への高頻度刺激(100μA,100μsで100Hz,30回)を行うと、生後1,2週では興奮性応答が辺縁層と膠様質内の浅い領域にとどまり、4週では興奮性応答が拡大するようになり、6,8週では、持続した膜脱分極が膠様質からさらに深部層へと広がるのが観察された。6,8週で観察された深部層への広がりは、NMDA受容体ブロッカーMK-801およびNK1受容体拮抗薬L-703.606で抑制された。一方、生後24時間以内にカプサイシンを皮下投与してc-線維を脱落させたマウスでは、生後6,8週でも、高頻度刺激による持続した膜脱分極の広がりはほとんど観察されなかった。マウス延髄における高頻度刺激による興奮性応答の広がりは、生後の成長とともに増大することから、成長とともに強い痛みへの感受性が強くなることが示唆される。カプサイシによるc-線維の脱落マウスでの興奮性応答の消失は、高頻度刺激によるc-線維終末の持続的な膜脱分極がNMDA受容体の活性化させ、さらに、サブスタンスPなど痛覚物質の放出を惹き起こす可能性が考えられる。とくに、持続性興奮応答の深部層への伝搬には、サブスタンスPの関与が強く示唆された。今後、成長の各段階において、延髄三叉神経脊髄路核尾側亜核における、高頻度刺激による膜興奮の広がりとサブスタンスPとNK1受容体の分布とを比較検討することで、成長過程での痛みの感受性変化のメカニズムを解明することが期待できる。
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