研究概要 |
全身の多部位に慢性筋痛を訴える線維性筋痛症(FMS)患者のβ_2アドレナリン受容体(β_2AR)機能評価のため,末梢血由来単核球細胞上に存在するβ_2ARを用い,情報伝達の際に産生されるcAMPを機能性マーカーとして,ELISA法により測定し,年齢,性別をマッチングさせた正常被験者のそれと比較した.FMS群(女性8名,平均年齢44.3歳)と無症状群(女性9名,平均年齢35.8歳)から静脈血を採取し,単核球を分離した.分離した単核球は10^6個ずつ分注し,安静時ベースラインと10^<-3>,10^<-5>Mに希釈したβAR刺激薬(Isoproterenol, IP)を5分間作用させた低・高濃度IP刺激後の3条件のcAMP量を測定した。その結果,低濃度である10^<-5>M IP作用後のcAMP量は,無症状群では有意な増加を示したが,FMS群では変化がみられなかった(無症状群:p<0.001,FMS群:P=0.520).FMS群において単核球におけるβ_2ARの刺激に対する反応が抑制されているという事実は,FMSの病態に全身性のβ_2AR機能の脱感作が関与する可能性を示唆する重要な所見と思われた.一方で,FMSとの病態メカニズムの差異が論争されている慢性局所性筋痛症のβ_2AR機能評価を,慢性筋痛者11名,正常被験者21名を対象にして前述の手法に従って行った.その結果,単核球が産生するcAMP濃度はIP刺激濃度依存性に増大したが,その濃度変化量は両群間に有意な差が見られなかった.本結果は,局所性慢性筋痛症の病態には,全身性のβ_2AR機能異常の関与は認められないこと,換言すれば,線維性筋痛症と局所性慢性筋痛症の病態が異なることを示す重要な所見であると考えられた.遺伝子多型の解析については「岡山大学歯学部ヒトゲノム・遺伝子研究倫理審査委員会」より患者の遺伝子解析について承認を得た後,本学歯学部附属病院顎関節症・口腔顔面痛み外来を受診した患者のなかで,本研究計画の被験者選択基準に合致し,研究の参加に同意の得られた者より,末梢血3mlを供与してもらい,サンプル数を増加させ,解析を進めている.
|