研究概要 |
本研究では歯根膜感覚情報の違いが高次脳機能にどのような影響を及ぼすかについて,行動学的,組織学的,薬理学的および生理学的手法を利用し多面的観点から検討することを目的とした. 平成14年度では,Wistar系雄性ラットを用い,生後8週齢で上顎両側臼歯を抜歯した臼歯喪失群(6匹)と非処置の対照群(6匹)を用いた.抜歯後60週まで自由摂取させた後,海馬内血流量を測定した.ラットをpentobarbital麻酔下にて脳定位固定装置に固定した.測定装置はLaser Flow BRL-100(バイオリサーチセンター社製)を用いた.海馬内に埋入したシングルファイバーセンサーから血流量を導出し,PowerLAB2/20 System (ADInsturuments社)にてMacintosh PowerBook G3 333に連続記録した.測定は体性感覚刺激および侵害刺激を付与した場合について行った.その結果,対照群と臼歯喪失群では体性感覚刺激後には刺激条件により海馬血流量の変動は異なり一定しなかった.一方,侵害刺激後には対照群に比較して臼歯喪失群の海馬血流量の変動は有意に低かった. また,病理組織学的観察として,脳血流測定後4%パラホルムアルデヒドで固定し,脳を摘出,海馬領域を含む厚さ7μmのパラフィン連続切片を作製,Nissl染色を行い海馬錐体神経細胞数を計測した.その結果,対照群に比較して臼歯喪失群の海馬錐体神経細胞数は有意に減少した. したがって,長期間におよぶ臼歯喪失は海馬血流量の変動が低下することにより,海馬錐体神経細胞の減少を惹起する可能性が推察された.
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