研究概要 |
炭素求核試剤を用いた、立体化学の反転を伴うビニル位炭素原子上でのS_N2型求核置換反応を開発するため、β位にアルキル基を導入した(E)-ビニル-λ^3-ヨーダンにシリルエノールエーテルを反応させた。室温で反応は起らなかったが、50度に加熱すると求核置換反応が進行した。ところが生成物は期待したβ,γ-不飽和ケトンではなく、共役不飽和ケトンが得られた。加熱により異性化が進行したと考えられる。 我々は(E)-ビニル-λ^3-ヨーダンにハロゲン陰イオンやアミドなどの求核試剤を作用させると、ビニル位炭素上でのS_N2反応が進行して、(Z)-オレフィンが立体選択的に生成することを報告している。一方、(Z)-ビニル-λ^3-ヨーダンを用いた場合には、anti-β-脱離が優先し、目的とするビニル位S_N2反応は全く進行しない。ところが、今回著者はエチニル-λ3-ヨーダンから合成した(Z)-β-ベンゾイルオキシビニル-λ^3-ヨーダンとn-Bu_4NX(X=Cl, Br, I)との反応を検討したところ、ビニル位炭素上でのS_N2反応が進行することを見出した。(Z)体ビニル-λ^3-ヨーダンでの初めてのS_N2反応である。 (Z)-β-ベンゾイルオキシビニル-λ^3-ヨーダンに大過剰のn-Bu4NXをTHF中65℃で作用させると、ビニル位でのS_N2反応が専ら進行し、立体化学が反転した(E)-臭化ビニルが定量的に得られた。anti-β-脱離は全く進行しない。ところが、n-Bu4NXの濃度を減少させると、配位子結合反応(ligand coupling)が競争反応となり、(Z)-臭化ビニルや(Z)-ヨウ化ビニルも生成するようになることを見出した。
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