1.ERK-MAPキナーゼ系が恒常的に活性化されている癌細胞株において、MEK阻害剤でそれを選択的に遮断した際、顕著なG1期集積に伴う増殖停止を認めたが、それだけでは有意なアポトーシス誘導に至らなかった。そこで、他の作用機構を持つ薬剤と併用することでその抗癌作用が増強される可能性を検討した結果、MEK阻害剤とチューブリン重合阻害剤を組み合わせた際にのみ、極めて顕著なアポトーシス誘導の増強を認めた。これまでチューブリン重合阻害剤によるアポトーシス誘導に関しては、G2/M期における紡錘体微小管の機能阻害(染色体分配阻害)が主な原因とされていたが、上述のよう癌細胞をG1期に集積させた際にその作用が増強されたことより、チューブリン重合阻害剤は紡錘体微小管の機能阻害というよりも、間期に存在する細胞質微小管の機能阻害を契機として、何らかの細胞死誘導シグナルを惹起することでその抗腫瘍効果を発現する可能性を見出した。 2.MEK阻害剤とチューブリン重合阻害剤の併用による癌細胞のアポトーシスは、微小管構造に顕著な影響を及ぼさない低濃度のチューブリン重合阻害剤によっても引き起こされることを見出した。これは、チューブリン重合阻害剤の抗腫瘍効果が、紡錘体微小管の崩壊を介して引き起こされるのではない可能性を側面から支持するものである。 3.MEK阻害剤とチューブリン重合阻害剤を併用投与した癌細胞において特徴的に、c-Jun N-terminal kinase (JNK)の極めて顕著な活性化を認めた。さらに、JNKのDominant-negative変異遺伝子の導入、あるいはanthrapyrazolone誘導体、SP600125(JNK特的阻害剤)を利用してその経路を遮断すると、MEK阻害剤とチューブリン重合阻害剤の併用によるアポトーシス誘導は大幅に抑制された。すなわち、MEK阻害剤とチューブリン重合阻害剤の併用によるアポトーシス誘導の増強において、JNKが重要な役割を果たしていることを明らかにした。
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