看護のあらゆる状況に対応できる判断能力を持った看護職者の育成は、質の高い看護を社会に提供する観点から、また、看護学を発展させる観点からも重要である。本研究は、学生の看護職者への第一段階の完成を目指す授業である臨地実習において、状況に応じながら対象の持てる力を引き出すように判断して看護過程を展開している学生の認識に注目し、その形成過程を構造的に浮き彫りにするとともに、基礎看護学教育の方向性について検討したものである。 研究方法は、筆者が基礎実習(平成10年度〜平成12年度)で直接指導した42名の学生の看護過程の中で、対象の持てる力を引き出すように判断した関わりにつながっていると思われる再構成可能な25看護場面を研究対象とし、学生の認識の動きに焦点をあてて構造分析した。その結果、以下のような判断に至る学生の認識の形成過程が明らかになった。なお、学生には実習中は教育に専念し、研究対象となった時点で目的を説明し承諾を得た。 学生は、看護するという目的意識を持って観察し、対象の事実の中から、意味のある事実を捉えている。そして、その事実の意味を、今までの生活や基礎教育課程で修得してきた知識や経験を自己の頭の中に呼び起こし、それらを統合しながら対象特性をつかんでいる。このようにして対象特性をつかめると、その人の感情を追体験しながら対象の持てる力を引き出すように判断し表現している。この意図的な働きかけに対する対象の反応を観察することにより自己の実践を評価している。学生の判断能力は、観察を出発として表現されるまでと、対象の反応を観察する過程にも働いていることが明らかになった。また、学生の判断能力育成には、対象の事実を看護する立場から知識や経験を媒介にして構造的に捉える頭脳を育成することが基礎看護学教育には特に必要であることが示唆された。
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