研究目的 精神機能障害を有する中途障害者がよりよく社会復帰するには、新たな学習を必要とする。しかし、認知障害や言語障害を伴うことが多いため、従来の学習方法では困難であることは経験的によく遭遇することである。今回は障害された認知機能やコミュニケーション機能(あわせて精神機能障害とする)を前提としない、行動分析理論を基盤とした学習方法の開発を試みることを研究目的とした。 研究方法 <第1段階>参加観察法を通して、臨床で精神機能障害患者にどのような方法でアプローチしているのか、を明らかにする。<第2段階>第1段階の結果を踏まえ、シングルケース研究法を通して日記の患者にとっての有効性を検証する。<第3段階>1、2の結果から有効な学習方法を見出す。 結果と考察 臨床では看護師をはじめとして、ケアスタッフは対象の障害を理解していながらも、自分たちが通常使っている言語を前提としたアプローチを行っていた。障害者の意思疎通の困難さがケアアプローチの阻害因子となり、有効なケアを進めるのが困難な状況であった。しかし、シングルケース研究法を通して、看護師の言動が行動の頻度を高める「強化子」となって、個々の対象の特徴を生かしたアプローチをしたところ、通常のコミュニケーションを用いずに患者は排泄や摂食の自立、さらには積極的に訓練に意欲を示すなどの成果を得た。 今回は5事例を対象としたが、いずれも認知機能低下、意欲低下、言語的コミュニケーション障害により全く意思疎通困難な事例であった。これらより、今後「強化子」を用いた「二項強化随伴性」という行動分析の理論を基盤とし、シングルケース研究法を用いて、事例数を重ねていくことにより、従来では社会復帰が困難な患者にとって有効な学習方法を徐々に明らかにできる可能性が示唆された。 今後は、ひとりの患者に複数の看護者がケアに当たる臨床上の特徴や多忙さの中で、シングルケース研究法をいかに正確に導入して使用するかが課題と考えられた。
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