研究概要 |
聴覚障害児の残存聴力活用に関する評価と指導法の開発にあたり,下記の研究を行った。本年度は,楽曲の音高列を用いた聴取実験の実施と昨年度に実施した識別実験を含めたデータ分析の作業を中心に行った。また,昨年度に開発した楽曲の測定尺度に関するアドインソフトをさらに使いやすくするため,改良を試みた。このソフトを活用しながら分析を進めた結果,聴覚障害児のみならず,健常児・者に関しても特徴ある識別過程を示すことを明らかにできた。 a)楽曲の聴取能力の測定と評価:昨年度に引き続き,聴覚障害児のピッチ識別能力の評価方法を考案する基礎データを求めるため,健常な大学生および小学2,4,6年の健常児を対象に,楽曲の音高列を用いた識別実験を実施した。そして,被験児・者が解答したデータを正答率(Correct Ratio)と情報伝達率(Ratio of Transmitted information ; TR)の2つの尺度を用いて、聴能を評価した。今年度は,のべ200名の健常児・者に関するデータをソフトウェアを用いて分析したが,障書児のみならず,健常児・者においても,正答率と情報伝達率に関して特徴ある識別過程を示すことが明らかになった。 b)情報伝達率に関するソフトウェアの開発:昨年度に開発した楽曲の測定尺度に関するアドインソフトを活用しながら,データ処理を進めたが,計算を行う上での操作手順や,算出された値の表記などで使いにくい点があったので,改良を業者に依頼した。 c)障害児を対象とした実践的指導方法の開発・研究:聴覚障害児のみならず,聴能を評価する過程においては,対象児・者への負荷を最少限にすることが望ましい。したがって,実験の実施においては,聴能の評価に用いる音響刺激(課題)の特性や1回に実施する課題の数,所要時間など,決して対象児・者に負担がかかることのないよう留意しながら手続きを構成した。本研究で考案した聴能の評価に関する手続きは,実践現場においても適用可能なものであったが,さらに多面的に評価できる手続きの考案が必要である。 本年度における研究成果は,日本特殊教育学会,日本発達心理学会などの研究大会で発表し,これらの当該学会において今後の研究課題を議論することができた。そこでは,聴覚障害児の聴能の評価のみならず,軽度発達障害児の聴能の評価にも適用可能な指導方法の考案が必要とされることが議論された。
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